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東京高等裁判所 昭和32年(ラ)350号 決定

理由

抗告人は昭和二十九年二月二十三日、抗告人所有の本件建物を抵当として鎮西産業株式会社より金十九万七千五百円を借り受けたが、その内容は元金額面金二十五万円に対し、利息と称して一カ月七分の割合で昭和二十九年二月二十三日より同年五月二十二日まで三カ月分として金五万二千五百円の天引を受け、返済期限は昭和二十九年五月二十二日の約束であつた。結局同会社は利息三カ月分を天引したので、抗告人が同社より受領したのは金十九万七千五百円であり、抗告人はなおこの金の中から抵当権設定登記費用等契約に要する費用を全部支払つた。

ところで返済期限の昭和二十九年五月二十二日には抗告人の都合がつかなかつたので、前記会社に相談に赴いたところ、同社の係員は利息さえくれれば切替えるというので、抗告人は前記会社の要求どおり金二十五万円に対する月七分の割合による利息を昭和二十九年十月三十一日まで月々支払い、その都度契約を更改して来た。

然るに前記会社は昭和三十年八月二十五日突如として本件建物につき競売を申し立て、原審東京地裁は右申立に基いて競売手続を進行し、ついに本件競落許可決定をみるに至つたのである。

しかしながら、前述のとおり、本件抵当権の基本たる金銭消費貸借契約は利息制限法違反の高利天引したものであるから公序良俗に反し無効たるを免れない。従つて金銭消費貸借契約が無効である以上抵当権設定契約も当然無効であるから、本件競落許可決定も当然取り消されるべきものである。

本件抵当権設定金円借用証書、建物登記簿謄本の記載によれば、相手方は昭和二十九年二月二十三日本件建物に抵当権を設定させて抗告人に対し金二十五万円を弁済期同年五月二十二日、利息月七分毎月二十八日払、期限後の損害金日歩三十銭と定めて貸与することを約定し、右元金から三カ月分の利息前払の趣旨で金五万二千五百円を天引し、残額十九万七千円を現実に抗告人に手交したが、抵当権設定登記をする関係上、証書面上は利息を旧利息制限法の定限利率たる年一割と定めた如き形式をとつたものであることが一応認められる。しかしながら、右のような定限利率を超過する利息の約定並びにその天引が行われたからといつて、他に特段の事情の認められない本件においては、本件消費貸借契約自体が全体として公序良俗に反し無効であると認めるべき何らの理由が存しないので、本件消費貸借自体が全部無効であることを前提とする抗告人の主張は採用できない。

もつとも、消費貸借において利息制限法の制限を超過する利息を天引した場合は、天引利息中同法の制限の範囲内の金額と現実交付額との合算額につき消費貸借は有効に成立するものと解するのを相当とするところ、相手方は本件消費貸借の元金二十五万円とこれに対する昭和二十九年五月二十六日から完済に至るまで日歩三十銭の割合の損害金の支払を求めるため本件抵当権の実行として競売の申立をしたものであること記録上明らかであるから、本件競売の申立債権額が過大に失することは明らかであるけれども、元来抵当権実行のための競売事件においては、債務が一部でも残存するかぎり債権者は有効に競売手続を進行させることができるものであるから、申立債権額が過大に失することは競落許可決定に対する適法な抗告事由と認めることはできない。本件においては、競売申立の基本債権の元本が少なくとも金十九万七千五百円は存在することを抗告人も認めているのであるから、利息制限法の制限を超過した利息の天引が行われたことは、原競落許可決定を違法ならしめることはない。

その他記録を精査しても原決定を違法とするかしを見出すことはできないから、本件抗告は理由なしとしてこれを棄却した。

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